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特集! 第86回・米アカデミー賞受賞式!
奴隷制度をテーマにした「それでも夜は明ける」が第86回アカデミー賞の作品賞を受賞した。主演女優賞はケイト・ブランシェット、主演男優賞はマシュー・マコノヒーがそれぞれ受賞。宮崎駿監督の「風立ちぬ」は受賞を逃した。
最多タイ10部門ノミネートの「ゼロ・グラビティ」「アメリカン・ハッスル」に、「それでも夜は明ける」の三つどもえの戦いとなったが、SFの「ゼロ・グラビティ」が監督賞と技術部門を独占(6部門)し、黒人奴隷の数奇で過酷な運命を描いた「それでも夜は明ける」が作品賞ほか3部門を獲得。俳優陣の頑張りが目立ったコメディー「アメリカン・ハッスル」は全敗だった。
作品賞の「それでも夜は明ける」について映画評論家の垣井道弘氏は、「家畜のように所有物として売買され、ロープで木に吊るされたり、鞭で打たれたりするシーンがリアルで生々しく、まるで自分が奴隷にされたような気分になる。黒人奴隷が出てくる映画は珍しくないが、衝撃度が突出している」と解説する。
黒人のスティーヴ・マックィーン監督が作品賞を獲得した背景には伏線があった。昨年7月に黒人女性のシェリル・ブーン・アイザックスが1927年の米アカデミー協会創立以来、初の黒人会長として就任。プロデューサーを引き受けたブラッド・ピット(50)の功績も大きい。
宇宙空間の驚異的な映像が高評価を得た「ゼロ・グラビティ」は、「登場人物がほとんどサンドラ・ブロックだけなのに、スリルとサスペンスで退屈させない」(垣井氏)。そのアイデアと演出力が際立つアルフォンソ・キュアロン監督はメキシコ人で、技術部門を独占したスタッフにもメキシコ人が多いという。映画作りの最前線ではマイノリティーがどんどん台頭している。
主演男優賞、助演男優賞、メーキャップ賞の3部門を獲得した「ダラス・バイヤーズクラブ」は、1980年代に未承認エイズ治療薬の密売組織を立ち上げた男の実話。ゲイを差別し、エイズ対策が大幅に遅れた政府に立ち向かった男の怒りをマシュー・マコノヒー(44)が演じきった。映画評論家のおかむら良氏は「エイズ患者になりきるため21キロ減量。強風になぎ倒されそうな細さだった。イケメンと言われながら中途半端な時期が続き、ようやく花開いた」と拍手を送る。
「ブルージャスミン」で主演女優賞のケイト・ブランシェット(44)は、ハリウッド映画に欠かせないオーストラリア出身。「ニューヨークの上流階級から落ちぶれて、サンフランシスコで暮らす妹のところにころがりこみ、まあまあの男とうまくいきかけるが、やっぱりダメという話。おしゃれと金遣いは一流だけど、自分のことしか考えないダメダメ女を優雅に好演。ウディ・アレン監督がこんな映画を撮るんだ、という今までにない作品」とおかむら氏。
涙をのんだ「アメリカン・ハッスル」は、天才詐欺師集団を演じた俳優たちのアンサンブルが見応えたっぷりで、レオナルド・ディカプリオ(39)の主演男優賞が期待された「ウルフ・オブ・ウォールストリート」も実話だが、コメディーと見なされたところがつらい。「アカデミー賞は昔からコメディーに冷たく、偉人伝や歴史大作を好む」と垣井氏。
主要部門が分散した今年のオスカー。自分なりの評価ポイントを意識して鑑賞するとより楽しめる。